自然農法家、福岡正信さんの思想書。農家の著作と思われるかと思うがしっかりとした思想家の著作である。
主張されていることを大きくまとめると、
・無知の自覚(人知の否定)
・分別及び価値判断の否定
・不可逆的文明の否定
である。
中でも分別及び価値判断の否定という思想がその中心を貫いている。
人知が有限であり、求めれば求めるほど遠ざかるということを具体的な例をあげわかりやすく述べている。そして、あらゆる価値判断が相対的であること、そして執着や贅沢が更なる渇きを生んでいることを根本に据えている。
現代社会が抱える渇きの原因がここにあることを様々な例からも示している。
少々偏りもあるが、不可知論や価値判断の問題などについて、大変わかりやすく書かれている名著であると言えるのではないだろうか。また本人が自然農法家として、その価値観に基づいた生活を実践していることも説得力に繋がっている。哲学者や高僧の議論に比べて甘さや偏りがあることは否めないが、実践が伴っているが故に強い説得力を持っている。
自分個人としても感銘を受けた。もともと抱いている思想と非常に近かったからかもしれないが。不可知、無知、主客の否定など、根底に仏教思想があることは間違い無いと思われる。
面白いと思ったのは、一農家の空いた時間で書いたものだと言いつつ、西田幾多郎や道元、西洋だとルドルフ・シュタイナーの思想と共通する点が多く見られることである。それぞれに仏教思想の影響が出た結果かもしれないけれど、思考のプロセスとして一般論→哲学的思考→宗教的思考(自分から見るとそう見える)という道筋を辿っているように思われる。自分も今以上に学び考え、その学び考えたプロセスを必要ではあったけど最終的には否定できるくらいの境地に達したいものである。がんばりませう。