kazki//okadaの備忘録

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「ねえみんな大好きだよ」銀杏BOYZ

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日本のロックバンド、銀杏BOYZのアルバム。前作から6年ぶりくらいだったはず。先に言っておくとこれはすごいアルバムだと感じた。前アルバムリリース以降、オリジナルメンバーの脱退以降、個人的にあまりグッとくる瞬間がなかった。ライブも一度観に行ったし、新しい楽曲も聴いていた。しかし、どれもグッとこなかった。以前の命を燃やし尽くすような音を感じることができなかった。いい曲だとは思うけど個人的に好みではなかった。自分が銀杏BOYZに求めていたものは失われてしまったと感じた。最初の同時発売の2枚は衝撃だった。次のライブ盤とスタジオ盤の同時発売も世間に流されない独自の恐ろしい進化を遂げていた。そこで燃え尽きたんだろうと感じていた。メンバーも燃え尽き、峯田さん自身も燃え尽きて、命を燃やすようなやり方はやめたんだろうな、と思っていた。そして、自分が銀杏BOYZに求めていたものは良質な音楽ではなく命を燃やし尽くすような感覚だったんだと思った。

このアルバムを聴く直前、一曲目のMVを見た。それは日本のノイズアーティストのような質感の音のハードコアっぽい曲だった。見る前は一応見ておくかぐらいの気持ちだったのですごく驚いた。自分の予想を遥かに超えた進化だった。命を燃やすような雰囲気があるかはわからない。こちらもいろいろな音楽をたくさん聴いて麻痺している部分も多い。そこを抜きにしても高揚したし最高だと思った。最近の割と売れてる日本のロックバンドをいろいろ聴いてみてもトリートメントされすぎた音質のものが多く、どれも同じような印象しか受けなかった。地下には尖ったバンドはたくさんいるけど。そういう尖ったバンドは別として、既存のかっこよさや激しさという枠にきれいに嵌め込まれたものにしか思えなかった。銀杏BOYZの新しいMVは違った。どちらかと言うとノイズミュージックに近い質感だった。中でもマゾンナさんみたいなバキバキに尖ったノイズ。楽曲もハードコアっぽくてかっこよく、途中ちょっと入るメロディ部分もすごく胸にグッとくるものだった。自分の知らない間にこんなに進化していたのかと。以前リリースしたライブ盤と近い方向性であるし驚くことではないかもしれないけど自分にはしっかり刺さった。

アルバムもその翌日すぐ聴いた。MVで抱いた期待は裏切られることはなかった。音も楽曲も素晴らしかった。特に序盤1〜5曲目くらいまでの流れは素晴らしい。一曲目にMVで公開したハードコアチューンで心を掴み、二曲目もそのままハードコアっぽい空気で走り抜ける。もちろんただのハードコアではない。独自の音を纏った銀杏BOYZのハードコアというべきか。そのまま三曲目に入る。ここでノイジーなゴイステのセルフカバーが入る。アレンジが素晴らしい。高校生の時に聴いた曲で、当時は革命的だったけど、今はメロディはいいけどアレンジとしてはそこまで好みではなく日頃から聴く感じではないなという印象の曲だった。自分に合わせて曲が生まれ変わっていて感動した。自分に合わせて作られたわけではないが一緒に参加したみたいで嬉しいと感じた。4,5曲目に歌ものがくる。ここら辺でくるというのは非常にいい。同じ空気が続くと統一感があってアルバムとしてかっこいいし流して聴くには良いのだけど、楽曲ごとの印象は薄くなってしまう。アンビエントやジャズ、ハードコアならその方がいいことが多いがロックの場合、個人的に飽きてしまう。この構成は飽きずに没入できる。6,7,8曲目も歌ものが続くのだが、これらも良曲。シングルカットされた曲も数曲入っているのだけど単体で聴いた時いまいちピンとこなかった曲がアルバムでこの立ち位置にいることで改めて輝き出す。ただ6曲目を聴いている最中、少し自分の中で集中が切れる感じがあった。こちらの問題でもあるが5曲目くらいまで完全に魅了されていたので少しうーんという感覚もあった。あまりに序盤が良かったので普通にいいはずなのに感動しきれない部分があったのは否めない。7曲目でYUKIさんの歌声が入ってくるところ、おっ!とはなった。ここで、おっ!と思えることでまた引き込まれた。8曲目はパッと聴いた感じはあまり印象に残らなかったが、何回か聴くうちにものすごく好きになった。なんならこのアルバムで一番好きかもしれない。アレンジに特色があるわけではないのだけど、なんかノスタルジーをくすぐるようなメロディとコードの響き。今の銀杏BOYZの音でゴイステの持っていたメロディのグッとくる部分を蒸留したような音楽をやった感じ。メロディにグッとくるとはっきり感じることができた。現代音楽やノイズ、コンテンポラリーなジャズとかをよく聴くせいか、シンプルなメロディとかコードの響きでグッとくることがあまりなかったように思われる。でもこの曲はグッときた。理由はよくわからない。この曲のこの位置もよかったんだと思う。ただ単曲でこの曲を聴いても何も感じなかったかもしれない。流れというか文脈というかそういうものがあって、そこにこの曲が来たから、ここまで感動したのかもしれない。9曲目以降も歌もの。でも空気は変わる。9曲目に以前の楽曲、光や人間のような長くて重い名曲が来る。言葉もメロディもしっかりしている。名曲だとは思った。みんなこれを待ってるとも思った。でも個人的には名曲ではあるがあまりグッとこなかった。少し予定調和を感じてしまったのかもしれない。あと予想を超える何かを感じられなかったのかもしれない。長さと流れもあり、少し夢から覚めてしまうような感覚を持ってしまった。10曲目は銀杏BOYZのテイストでありながら90年代j-popのようなメロディと雰囲気。改めて単曲にフォーカスして聴くとすごくいい曲だなと思うけどアルバムとして聴いたときは集中が切れてしまったというか序盤の感動が続いてないという感覚が色濃く自分の中に感じられた。改めて聴くといいなと思うのだけど。アルバムの長さのせいか、曲構成のせいか。65分という長さは別に長いわけではない。曲構成に起因するのか。11曲目もいい曲なのだけど印象が薄い。アレンジ等もしっかりしているのだけど。何回聴いても印象が薄い。いい曲が三曲続くからか。自分は曲の区別が人よりつかなかったり、音楽的刺激に関して麻痺している部分が強いと思う。そういう人には終盤は少しダレる展開だと感じてしまうかもしれない。改めて聴くとすごくいい曲だけど。序盤、信じられないくらい感動したことで、聴きながらハードルが上がりすぎた感があるのは否めない。アルバム終盤についてあまりいいとは言えない感想を述べたがこのアルバムが自分にとってすごくいいアルバムであることは間違いない。本当におすすめできるし、次がいつになるかわからないが銀杏BOYZの次の作品を改めて楽しみだと思える心を取り戻せたのはすごくよかったと思った。