kazki//okadaの備忘録

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「ちーちゃんはちょっと足りない」阿部共実

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全1巻。阿部共実さんの代表作。かなり前に読んで本当に好きだったのだけどレビューしてなかったことに気付いたので改めて読んだ上で。

 

阿部共実さんの作品で初めて読んだのがこの作品。なんかの賞をとっていて阿部共実さんの作品の中でも一番知名度があるかも。話題作ゆえに逆にそんなに期待せずに読んだらめちゃくちゃ刺さる内容で一気にファンになった。それ以降、発表されている作品は全て読むようになった。

 

とある街(少し田舎っぽいと思っていたけど風景とか見ると神戸市かもしれない)に住む女子中学生の話。

読み始めてしばらくは日常系ほっこりギャグ漫画かと思っていたけど、ある出来事を境に作品の雰囲気が一変する。とはいえ、異世界に行くとか、突然街が破壊されるとかそういうものではない。人間の生活における息苦しさや生きることのリアリティのある範囲の苦しみ、日常における軋轢などを身近すぎる形で描いている。

主人公と思われていた"ちーちゃん"より、その友人の"ナツ"が物語の中心にいて、中途半端な冴えなさ、中途半端な内向きのエネルギーが生み出す苦しみをかなり細かく描いている。

個人的にすごく共感するキャラクターで、ナツの存在は、過去の苦しみでもあり、懐かしさでもあり、未来への教訓でもある。けどデザインがそこそこかわいい(そこも非常にうまい描写)ので感情移入もできてしまうといういいキャラクター。

物語としては、最終的に決定的に悪いことが起こったわけではないし、何か希望のようなものが提示されたわけではない非常にもやもやするいいエンディングを迎える。解釈次第ではハッピーエンドとも言えるのかもしれないし、変わらぬ友情の物語とも捉えあるかもしれない。

しかしおそらく、一般的解釈としては、ナツが呪いのような言葉でちーちゃんを成長を許さない悪い現状維持という沼に自分もろとも引き摺り込むような苦しい終わり方である。笑顔で爽やかなどろどろ。その終わり方が日本の古い純文学のようで沁みるし、ナツという冴えない女の子のキャラクターに独自の魅力を付与している。

自分が何が好きか、どういうものに魅了を感じるかということについて改めて考えるきっかけを与えてくれる作品だった。

自分が発信したい思考、思想とは違うものではあるけど、この作品くらい人の心に一滴の墨を垂らすような作品を作りたいなと思った。