「実験」田中慎弥
田中慎弥さんの短編小説が3つ入った作品。小説を読むのはかなり久しぶりだったけどすごくよかった。
実験
メタ的な目線で人生を楽しむこともいいなと。内容で直接そういうことを描いているわけじゃないけどそう思った。日常の明るいけど暗い昼間の描写がすごくノスタルジーをくすぐる。久しぶりに日本の小説読んだけどいいなと思った。
汽笛
2作品目の汽笛。これもやはり暗い昼の描写を感じる。すごく気怠く美しい。曽祖父の死を知らされた昼下がりを思い出す。自分の曲で死季というこの時の感覚を描いた楽曲があるのだけど、それとリンクする。話も面白かった。最初理解しづらい部分が、ああ、となる仕組みも凝りすぎてなくてちょうどいい。技法に溺れているように感じるのは好きじゃないから。海の描写も好きだった。独特の海辺の匂いを感じるようだった。冥界と海辺の親和性を感じた。実験以上に楽しめた。短さもまたとてもいい。小説もいいなと更に強く思った。
週末の葬儀
3作品目の週末の葬儀。なんとこちらも暗い昼の描写が光る作品。砂と錆に飲まれていくニュータウンがどこかディストピア的な空気感を醸し出している。また海の描写が重なってもいる。3作品がリンクしているが、ドヤ感が出ないちょうどいい具合が保たれている。重苦しい日常とそこを打ち破るどんよりした非日常。この三作品を読んで久しぶりに小説はいいなと改めて思うことができた。