kazki//okadaの備忘録

kazki//okadaの個人的な見解やレビューなどを垂れ流します。

「ど根性ガエルの娘」大月悠祐子

f:id:kazki_okada:20230225220721j:image

全7巻(6,7はデジタルのみ)。ど根性ガエルの作者吉沢やすみさんの娘、大月市祐子さんのエッセイコミック。破天荒な漫画家の父とそれに振り回される家族の物語、と最初の方は重さがありつつもハートウォーミングな部分もある感動のエッセイコミックという感じに見えるがそんなありきたりなものではない。最初はそのような形で話が進んでいくのだが途中で衝撃的な転換があり、そこから、狂っていく家族の問題、コミックエッセイが抱える問題、作品にのまれていく人生、人生を作品として見ていくこと、人間の抱える問題、さまざまな問題が具体的な答えが示されないまま提示されていく。作品内でも提示されている(もしくはこちら側がそう解釈できる)ことだが、出来事を作品に落とし込んでいく時に歪みが生じる。それは出来事をありのまま描くと作品として面白みが足りなかったり、えぐみが強すぎたり、そもそも作品として成立しなかったりする。それを避けるためにはある程度、形を整えるような解釈が必要だったりする。しかし、そのことで大切な部分に歪みが生じたりする。この作品はそのことを結果的にかもしれないけど見事に暴き出している。同じ出来事でも解釈や視点、描き方一つでここまで変わるのかということを感じさせてくれる。自分は自分の歌にあまりフィクションを入れたくないと考え、割とエッセイやノンフィクション、ドキュメンタリー的な感覚で作曲作詞してきたつもりでいる。この作品を読むことでそのことについて改めて考えさせられた。人生を作品に注ぎ込むこと。習慣化していくと作品に注ぎ込むための人生を意識し始めること。それがいいことか悪いことかわからないけど、そこにリアルがあるか。それを人は求めるか。求められる必要はあるか。自分に向けた作品であるならリリースする必要性はあるか。この作品をきっかけにこの作品と関係のないことまでいろいろ考えることができた。この作品より酷い展開の作品や状況は世の中に多々あると思う。しかし描き方の影響かもしれないが、これほどまでに重く考えさせる作品はなかなかないと思う。特に同じ事象で視点の変化でここまで変わるという感覚を味わうことに関してはこの作品ほどに強く感じることができるものはないかもしれない。本当にいろいろ考えさせてくれる。全巻がフィジカルリリースされていないのが本当に残念。1〜5巻は紙媒体であとはデジタルになってはしまうがぜひ全巻読んでみてほしい。